大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(行ウ)204号 判決

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  原告ら

被告がした車両制限令一二条に基づく別紙二記載の平成一〇年度の特殊車両通行認定一覧の番号三四、三五及び四七から五四まで並びに平成一一年度の同一覧の番号一から二〇まで及び四三の特殊な車両としての通行認定処分を取り消す。

二  被告

(本案前)

主文第一項と同旨

(本案)

原告らの請求を棄却する。

第二  事案の概要

本件は、山田建設株式会社(以下「山田建設」という。)が、東京都足立区(以下「足立区」という。)が五反野二八二として路線認定している区道(以下「本件道路」という。)沿いにマンションの建設を計画し、その建築工事のために、工事業者、運送業者などが道路法四七条四項、車両制限令一二条に基づき、特殊車両の通行認定を申請し、被告が、右申請を受けて、同条に基づく特殊な車両としての通行認定処分をしたことに対し、本件道路周辺に居住する住民である原告らが、右通行認定処分により道路法等により保護された安全快適に道路を通行する利益を侵害されるなどと主張して、同処分の取消しを求めるものである。

一  関係法令の定め

1  道路法(以下「法」という。)について

法四七条は、道路と車両との関係を調整するため、一項で「道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係においても必要とされる車両(人が乗車し、又は貨物が積載されている場合にあってはその状態におけるものをいい、他の車両を牽引している場合にあっては当該牽引されている車両を含む。以下本節及び第八章中同じ。)の幅、重量、高さ、長さ及び最小回転半径の最高限度は、政令で定める。」と規定し、二項で「車両でその幅、重量、高さ、長さ又は最小回転半径が前項の政令で定める最高限度を超えるものは道路を通行させてはならない。」と規定し、三項で「道路管理者は、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため必要があると認めるときは、トンネル、橋、高架の道路その他これらに類する構造の道路について、車両でその重量又は高さが構造計算その他の計算又は試験によって安全であると認められる限度を超えるものの通行を禁止し、又は制限することができる。」と規定し、さらに、四項で「前三項に規定するもののほか、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限に関する基準は、政令で定める。」と規定している。

2  車両制限令について

(一) 法四七条一項の規定に基づき車両制限令が制定され、その一条は、「道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限は、道路法(以下「法」という。)に定めるもののほか、この政令の定めるところによる。」と規定している。

(二) 法四七条一項の規定を受けて、車両制限令三条一項は、法四七条一項の車両の幅、重量、高さ、長さ及び最小回転半径の最高限度は、次のとおりとする旨定めている。

(1) 幅 二・五メートル

(2) 重量 次に掲げる値

イ 総重量 高速自動車国道又は道路管理者が道路の構造の保全及び交通の危険の防止上支障がないと認めて指定した道路を通行する車両にあっては二十五トン以下で車両の長さ及び軸距に応じて当該車両の通行により道路に生ずる応力を勘案して建設省令で定める値、その他の道路を通行する車両にあっては二十トン

ロ 軸重 十トン

ハ 隣り合う車軸に係る軸重の合計、隣り合う車軸に係る軸距が一・八メートル未満である場合にあっては十八トン(隣り合う車軸に係る軸距が一・三メートル以上であり、かつ、当該隣り合う車軸に係る軸重がいずれも九・五トン以下である場合にあっては、十九トン)、一・八メートル以上である場合にあっては二十トン

ニ 輪荷重 五トン

(3) 高さ 三・八メートル

(4) 長さ 一二メートル

(5) 最小回転半径 車両の最外側のわだちについて一二メートル

(三) 車両制限令は、四条で「法第四十七条第四項の車両についての制限に関する基準は、次条から第十二条までに定めるとおりとする。」と規定し、五条から一二条までに法四七条四項の車両についての制限に関する基準を定めている。

車両制限令五条一項は、市街地を形成している区域内の道路についての車両の幅の制限について、次のとおり定めている。

(1) 市街地を形成している区域(以下「市街地区域」という。)内の道路で、道路管理者が自動車の交通量が極めて少ないと認めて指定したもの又は一方通行とされているものを通行する車両の幅は、当該道路の車道の幅員(歩道又は自転車歩行車道のいずれをも有しない道路で、その路肩の幅員が明らかでないもの又はその路肩の幅員の合計が一メートル未満(トンネル、橋又は高架の道路にあっては、〇・五メートル未満)のものにあっては、当該道路の路面の幅から一メートル(トンネル、橋又は高架の道路にあっては、〇・五メートル)を減じたものとする。以下同じ。)から〇・五メートルを減じたものを超えないものでなければならない(一項)。

(2) 市街地区域内の道路で一項に規定するもの以外のものを通行する車両の幅は、当該道路の車道の幅員から〇・五メートルを減じたものの二分の一を超えないものでなければならない(二項)。

(3) 市街地区域内の駅前、繁華街等にある歩行者の多い道路で道路管理者が指定したものの歩道又は自転車歩行者道のいずれをも有しない区間を道路管理者が指定した時間内に通行する車両についての一項、二項の規定の適用については、一項中「〇・五メートルを減じたもの」とあるのは「一メートルを減じたもの」と、二項中「〇・五メートル」とあるのは「一・五メートル」とする(三項)。

(四) また、車両制限令一二条は、右の車両の幅等の制限の特例について、「幅、総重量、軸重又は輪荷重が第三条に規定する最高限度をこえず、かつ、第五条から第七条までに規定する基準に適合しない車両で、当該車両を通行させようとする者の申請により、道路管理者がその基準に適合しないことが車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむを得ないと認定したものは、当該認定に係る事項については、第五条から第七条までに規定する基準に適合するものとみなす。ただし、道路管理者が運転経路又は運転時間の指定等道路の構造の保全又は交通の安全を図るため必要な条件を附したときは、当該条件に従って通行する場合に限る。」と規定して、道路管理者の認定によって、車両の幅等の制限を緩和することができる旨定めている。

二  争いのない事実

山田建設は、東京都足立区αからβ四番に至る五反野二八二として路線認定されている道路(本件道路)に面して、七階建てのマンションの建築を計画し、その建築工事のために、山田建設が発注した工事業者、運送業者などをして、法四七条四項、車両制限令一二条に基づき、別紙二特殊車両通行認定一覧記載のとおりの特殊な車両としての通行認定を申請した。

これに対し、被告は、別紙二特殊車両通行認定一覧記載のとおり車両制限令一二条に基づく特殊な車両としての通行認定処分(以下「本件各処分」という。)をした。

三  原告らの主張する本件各処分の違法性

本件各処分は、以下に述べるように、法、車両制限令に違反し違法であるから取り消されるべきである。

1  第一に、本件道路で、法上の道路として路線認定を受けているのは、一・八二メートルの幅員しかなかった。法は、法三条に規定されているとおり、路線認定を受けている道路についての法律であり、道路管理者は、路線認定を受けている部分の幅員を超える幅の車両については通行認定をすることができないのである。しかるに、本件各処分は、右認定路線の幅員を上回る車両について通行認定をしている。したがって、本件各処分が、法四七条、車両制限令の規定に違反することは明らかである。

被告は、実体的に管理されていることを理由に、区が管理している道路の実際の幅員が、法にいう道路の幅員であるとしているが、そもそも、区が管理している道路は様々なものがあるのであって、そのすべてが法にいう道路に該当するわけではなく、法にいう道路に該当するためには、道路として現実に供用され、かつ、道路管理者が管理するといった実体的要件とともに、法所定の手続に従って、道路認定するという法的手続がとられることが必要なのであって、その手続終了までは、法上の道路として扱うことはできないというべきである。本件の場合、道路として認定されていないところは、昭和二八年四月一日の認定の時点では、水路であったものであり、実体的にも当時は右の法的手続を取りえず、その後、水路は埋められたが、国有財産である以上、水路としての用途廃止、足立区への払下げ等の手続が完了して初めて道路になるのであって、そうした手続が一切進行していない時点でなされた本件各処分は違法であるといわざるを得ない。

2  第二に、本件各処分に係る認定車両は、そのほとんどが、トラック又はコンクリートミキサー車であるが、車両制限令一二条において、通行認定ができるのは、「(車両制限令の五条から七条までに規定する)基準に適合しないことが、車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむを得ない」場合に限定されるところ、トラック又はコンクリートミキサー車による運搬・作業は、車両制限令一二条による通行認定を要しない小規模な車両により行うことも可能であり、右の要件には該当しない。

したがって、本件各処分のうち、トラック及びコンクリートミキサー車についてのものは、右の規定に違反し、違法である。

3  第三に本件各処分により通行認定を受けた車両はしばしばその条件に違反し、違法な通行をしているが、このことは本件各処分の取消事由となるものである。

四  争点及び争点に対する当事者の主張

本件の争点は、原告らに本件各処分の取消しを求める原告適格が認められるか否かであり、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(被告の主張)

1 行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消するにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきであるが、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきであるとされる。

また、行政法規が個々人の個別的利益を保護する趣旨であるか否かは当該処分の根拠となった法規について個々に検討すべきものである。

2 本件各処分は、法四七条一項、四項の規定に基づき制定された車両制限令一二条に基づいてなされた処分であるが、その根拠となった各条項に一定の範囲の個人の個別的利益を法律上保護することを図るために規定したことをうかがわせる文言は存在しない。さらに、車両制限令その他に規定についても、個々人の個別的利益を保護する趣旨であると解すことのできる条項は存在しない。

3 法上の道路による交通が安全かつ円滑に行われるべきは当然であるが、法は道路の構造につき、二九条で、「道路の構造は当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならない」と規定し、幅員、建築限界、線形、こう配、路面など、道路の構造の基準について政令(道路構造令)で具体的な規定を定め、四七条で、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両の幅、重量、高さ、長さなどについては政令で定める旨規定し、政令(車両制限令)でそれらの具体的な基準を定めている。

その他、法四二条で道路管理者に対し、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならないとの責務を課し、法四五条で、道路管理者に、道路の構造を保全し、又は交通の安全と円滑を図るため、必要な場所に道路標識又は区画線を設けなければならないとの責務を課し、また、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路管理者に区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限する権限を付与するなどして、供与される道路による交通が安全、円滑に行われるために必要な規定を設けている。

道路上の交通が安全、円滑に行われるために設けられた規定は法及びこれに基づく法令に限るものではなく、その他にも道路交通法、道路運送車両法等の法令が存在する。

道路管理者により供用される道路上の交通について、このような各種の法令の規定が実施されることにより、一般公衆は、安全かつ円滑に道路交通を行うことができるが、そのような利益は一般的公益として実現されているものであって、道路管理者が道路を公共の用に供し、各種の法令が守られていることの反射的利益として一般公衆はこれを自由に享受するにすぎないものである。これに反して、道路上の自由交通が、およそ道路を利用するものないしその可能性のある者すべてに対し認められた、法律上保護された利益と評価することはできないのである。

4 前記のとおり、車両制限令の規定は、法及びその関係法令と同様、一般公衆が安全、円滑に道路を利用できるために必要な制限等を定めているものであって、本件各処分の根拠となった車両制限令一二条の規定も含め車両制限令のすべての規定が保護しようとしている利益は、道路における一般公衆の安全円滑な交通であって、それは特定の者の利益を法律上保護する趣旨で制定されたものではない。

また、車両制限令一二条は、道路の構造保全と交通の危険防止のために規定されているものであるが、当該規定に交通の危険防止を図る趣旨が包含されているからといって、それが、原告らが主張するような、「付近住民の安全な交通環境等の生活上の利益」を個別的に保護する趣旨を含むものと解する余地はない。

すなわち、道路を安全、円滑に交通の用に使用する利益は前記のとおり一般的公益として実現されているのであって、広く一般公衆に認められるものである。およそ、その利用頻度、目的、利用する交通手段、居住地、年齢等にかかわらず、道路上の交通は安全、円滑に行われるようにすることが法を含む前記法令の趣旨、目的であって、特定の者に限って、法律上保護された利益として安全円滑な利用が保護され、道路管理者はそれ以外のものについては安全円滑な利用を図る責務がないなどと解せないことは当然である。また、特定の者に対して、それ以外の一般公衆が享有する安全円滑な道路交通と異なる内容の特別な利益が法律上保護されていると解する余地もないのであって、そのような、一定の範囲の個人を限ってその者の利益を法律上保護するとの規定は本件各処分の根拠となった条項には一切存在しないのである。

5 なお、本件各処分には、いずれも車両制限令一二条の規定に従い、別紙三記載の条件が付されている。

また、本件各処分の認定の対象となった車両が通行する道路については、平成一〇年八月七日、法一八条の規定に基づく東京都足立区告示第二二六号により特別区道の区域変更がなされ、即日当該道路の区域について供用が開始されている。すなわち、右告示により特別区道として区域変更、供用開始がなされたのは、足立区β一四五七番八地先から同区α一三四〇番八地先までの、延長三七七・七七メートル、幅員四・五四ないし五・三四メートルの範囲であり、本件各処分の対象となった車両が通行することについて認定を受けた道路は、右特別区道の全延長部分である。

本件各処分に付された右の条件の下において、本件各処分によって認定された車両が期間を限定して右特別区道を通行することにより、原告らにその主張するような被害が発生することはあり得ないから、この点からも原告らに原告適格が認められる余地はないというべきである。

(原告らの主張)

1 法に基づいて定められた車両制限令の規定の趣旨は、道路の構造保全及び交通の危険防止にある(車両制限令一条)。それは、道路管理、交通秩序維持という単なる公共の利益の趣旨のみならず、当該道路を日常生活上通行の用に供している付近住民を交通安全上の危険から守ろうという趣旨をも含むものである。

特に本件で問題となっている通行車両の幅の個別的制限の規定(車両制限令五条、六条、一二条)は、道路の構造保全及び交通の危険防止という車両制限令の前記趣旨のうち、交通の危険防止を主たる趣旨とするものであり、市街地区域内外の別等に応じて制限値を定めていることからみても、右規定が付近住民の安全な交通環境等の生活上の利益を保護する趣旨をも含むことは明らかである。

2 また、車両制限令五条、六条は、車両の幅の制限を大別して市街地区域内(五条)と市街地区域外(六条)に分けて規定している。これは、市街地区域内の道路における場合と市街地区域外の道路における場合とでは歩行者が量的に差異があることを前提としたものであるが、車両制限令は、一般公衆の歩行者としての安全交通という一般公益のみならず、付近住民、とりわけ道路沿線住民の安全交通という個別的利益の保護にも着目して、右のような制限の差異を設けているものである。

このように、車両制限令における車両の幅の制限規定において、市街地区域の内外で制限に差異を設けているのは、市街地区域内においては、沿道に現実に連たんする人家の住民が、当該道路を日常的に通行の用に供していることから、市街地区域外に比して歩行者の量が多いことによるものであり、右規定が付近住民の歩行者としての交通の安全という個別的利益をも保護していることを示すものである。

3 さらに、道路の状況に応じた対応は、車両制限令五条で、歩道などがある場合とそうでない場合で区別している点にもみられる。

これは、車両制限令にいう歩道では、歩行者の通行の安全が具体的に確保されることとなるために、その場合とそれ以外の場合で区別しているのであり、この点もまさに、個別具体的な付近住民の歩行者としての交通の安全という個別的利益を保護する趣旨に出たものであることは明らかである。

4 加えて、車両制限令一二条は、個別的制限に適合しない車両に対し特殊な車両として通行認定を行うにつき、「道路管理者が運転経路又は運転時間の指定等道路の構造の保全又は交通の安全を図るための必要な条件」を付することができる旨を規定している。

この通行認定条件の付加は、単に一般公衆の一般的公益保護の観点からのみならず、個々の具体的な道路状況を勘案し、付近住民の個別的利益保護の観点からなされるものである。現に、本件各処分に付された条件をみるに、〈1〉沿道住民に対して、工事についても十分な周知を行い、車両の通行について理解を得ること、また、沿道住民の苦情は、認定を受けたものの責任において処理すること、〈2〉認定車両通行の際は、徐行し、誘導員を配置すること、〈3〉認定経路が通学路となっている場合は、沿道学校に問い合わせ、登下校時間は通行してはならないといった条件が付されており、これらはまさに付近住民の個別的利益保護のための条件というべきである。

このように、車両制限令一二条による通行認定の条件が付近住民の個別的利益の保護の観点からも付されるものであることは、車両制限令の幅の個別的制限規定が、単に一般公衆の一般的公益保護のみならず、付近住民の個別的利益保護をも趣旨としていることを示している。

5 以上のとおり、車両制限令の車両の幅の個別的制限に関する規定は、一般公衆の一般的公益を保護しているのみならず、付近住民、とりわけ道路沿線住民の個別的利益をも保護する趣旨を含むと解されるのであって、右規定に違反して通行する車両によって安全な交通環境等の生活上の利益を侵害され、道路通行上の危険にさらされる者は、右違法な車両通行を根拠づける行政庁の車両制限令一二条に基づく認定処分を争うにつき法律上の利益を有するものというべきである。原告らは、いずれも、本件道路を日常生活上の通行の用に供しており、本件各処分によって、右の法的利益を侵害され、道路通行上の重大な危険にさらされるという重大な被害を受ける者であり、本件各処分の取消しを求める原告適格を有することは明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  行政庁がした処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるものであるが(行政事件訴訟法九条)、右の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうものであり、当該処分の根拠となった行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁、最高裁平成六年(行ツ)第一八九号同九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号二五〇頁参照)。

二  そこで、右の見地に立って、本件各処分の取消しを求める本件訴えについて、原告らが原告適格を有するか否かについて検討する。

法は、道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もって交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とし(一条)、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係においても必要とされる車両の幅、重量、高さ、長さ及び最小回転半径の最高限度は、政令で定めること(四七条一項)、車両でその幅、重量、高さ、長さ又は最小回転半径が前項の政令で定める最高限度を超えるものは道路を通行させてはならないこと(同条二項)、道路管理者は、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため必要があると認めるときは、トンネル、橋、高架の道路その他これらに類する構造の道路について、車両でその重量又は高さが構造計算その他の計算又は試験によって安全であると認められる限度を超えるものの通行を禁止し、又は制限することができること(同条三項)、一項ないし三項に規定するもののほか、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限に関する基準は、政令で定めること(同条四項)を規定している。

また、車両制限令は、一条において「道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限は、道路法(以下「法」という。)に定めるもののほか、この政令の定めるところによる。」と規定し、車両制限令三条は、法四七条一項を受けて、車両の幅等の最高限度を規定し、さらに、車両制限令五条ないし九条は、法四七条四項を受けて、市街地区域内の道路における車両の幅の制限(五条)、市街地区域外の道路における車両の幅の制限(六条)、総重量、軸重及び輪荷重の制限(七条)、カタピラを有する自動車の制限(八条)及び路肩通行の制限(九条)を規定している。

そして、車両制限令一二条は、右の車両制限令五条から七条までに規定する基準に適合しない車両で、その基準に適合しないことが車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむを得ない場合に、道路管理者がその旨認定することができ、この認定がなされた場合には、当該認定に係る事項については、車両制限令五条から七条までに規定する基準に適合するものとみなされる旨を規定している。

右のとおり、法及び車両制限令は、道路の構造の保全及び交通の危険の防止という趣旨から、車両について種々の制限をしているのであるが、道路は広く一般の利用に供されているものであり、一般国民が道路を通行する利益は通常は当該道路の存在を前提として認められる反射的利益(道路管理者が当該道路を公共の用に供している限りにおいて自由に通行する利益)にとどまるものであること、安全かつ円滑に道路を利用する利益が、当該道路の利用頻度、目的、利用形態、居住地、年齢等によって左右されるべき性格のものではないことを考え併せれば、右制限を設ける趣旨は、交通の危険の防止等を通じて広く公益を実現することにあるというべきであり、右制限を設ける場合に考慮されているのは、一般に道路を利用する国民ないし地域住民が共通して持つ抽象的、一般的な利益であるというべきであり、そして、法及び車両制限令は、個々の道路利用者の利益は、右車両についての種々の制限に関する規定が目指す公益の保護を通じてその結果として保護されるべきものとしているものと解される。

また、法四七条四項の規定に基づく車両制限令一二条所定の道路管理者の認定は、車両の通行の禁止又は制限を解除する性格を有する許可(法四七条一項から三項まで、四七条の二第一項)とは法的性格を異にし、基本的には裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものであると解されるところ、右認定の手続においては、車両制限令五条から七条までに規定する車両についての制限に関する基準に適合しないことが、車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむを得ないものであるかどうかの判断がなされるにすぎず、当該道路の沿線ないし近隣の居住者等の利益を考慮することが当然に予定されているわけではなく、車両制限令一二条所定の道路管理者の認定手続からも、当該認定手続の対象となる道路の付近ないし沿道に居住するものの利益が法律上保護されていると解することはできない。

そうすると、ある道路の沿線に居住し、ふだんその道路を利用しているからといって、かかる者が当該道路を安全かつ円滑に利用する利益が、道路利用者として有する抽象的、一般的な利益以上に個別具体的な利益として法四七条、車両制限令一二条等により保護されていると解することはできない。

三  原告らは、車両制限令一二条は、通行認定を行うにつき、道路管理者が運転経路又は運転時間の指定等道路の構造の保全又は交通の安全を図るための必要な条件を付することができる旨規定していることから、車両制限令の幅の個別的制限が付近住民、とりわけ道路沿線住民の個別的利益をも保護する趣旨を含むと解されると主張する。

しかし、車両制限令一二条の条件は、道路の構造の保全又は交通の安全を図るために付されるものであるところ、前述したとおり、道路は広く一般の利用に供されるものであるから、同条の条件も、広く一般公衆のために付されるものであり、同条が、道路管理者において同条に基づく認定を行う場合に条件を付することができると規定していることをもって、付近住民、道路沿線住民の個別的利益を保護する趣旨のものであると解することはできない。そして、たまたま同条に基づいて付された条件が地域住民ないし沿道住民のことを考慮していたとしても、そのことによって、右の者の法律上保護された利益が存在することになるということにはならないというべきであり、本件各処分において、沿道住民に対して工事についても十分な周知を行い、車両の通行について理解を得ることなどの条件が付されていたとしても、右の結論が左右されるというものではない。

また、原告らは、車両制限令が、車両の幅について、市街地区域内と市街地区域外に分けて規定していること、歩道がある場合とない場合とで分けて規定していることから、車両制限令が付近住民、とりわけ道路沿線住民の交通の安全という利益を個別具体的に保護していると解すべきである旨主張するが、右規定により考慮の対象とされる道路利用者も、個々の具体的な利用者ではなく、前記のように一般化された抽象的概念としての利用者であると考えるべきであって、原告らの主張は採用することができない。

四  以上からすると、原告らには、本件各処分の取消しを求めるについて法律上の利益は存在しないから、原告らは本件訴えについて原告適格を有しないというべきである。

第四  結論

よって、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 谷口豊 裁判官 加藤聡)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例